About

呼子の空と風にはためく、人が集まるフラッグに

ホエールブルーイングのある佐賀県唐津市呼子町は、江戸時代、国内有数の捕鯨基地として賑わっていました。多くの人が集まり、鯨組という組織が形成され、「鯨一頭で七浦潤う」、つまり鯨が一頭獲れれば七つの漁村が豊かになると言われたほど。このまちの人々にとって鯨とは、活力、繁栄、希望の象徴だったのです。それからいくつもの年月が流れた今。もう一度、あの熱気を呼び起こしたい。あの頃と変わらない空の下、風の中に、人が集い、笑い合う光景を生み出したい。積み重ねてきた時の薫りを感じながら、今と未来の希望に胸躍らせる。これからの呼子にはためく、ホエールブルーイングという新しいフラッグを掲げます。

Architecture

築80年の古民家との出会い

佐賀県唐津市に位置する港町「呼子」で、築80年の古民家をクラフトビールを扱う醸造所「Whale Brewing」として再生するプロジェクト。かつて江戸時代には捕鯨の拠点として栄えていた呼子は、現在はイカ漁が盛んな町として知られる一方で、若者の転出など人口の減少も続いており、空き家増加などの課題も抱えています。今回のプロジェクトは、そのようなエリアの状況を背景に、まちに活気を取り戻したいというクライアントチームの思いからスタートした計画です。

計画地となったのは、「呼子朝市通り」と呼ばれる通り沿いにある古民家で、毎朝地元で獲れた海産物や加工品などの露店が並びます。この建物はかつて店舗兼住宅として使用されていましたが、長年の使用の後に空き家となり、一部雨漏りなどによる腐食が発生していました。特にファサード部分は損傷がひどく、内部も含めて構造的な補強や屋根や外壁の補修が必要な状況でした。しかし、内装解体後には最高高さ約9mの大空間と迫力のある小屋組が現れました。私たちは施主との打ち合わせを重ねながら、建築的に必要な再生だけでなく、この建物が持つ空間の強さをブルワリーに取り込むこと、そしてこの新しい場所と前述の通りが繋がりを感じられる空間を目指すことにしました。

この建物は断面的に、天井のある店舗スペースをファサード側に確保しつつ、醸造スペースの一部は2階分の高さを活かした大きな吹き抜け空間としています。さらに、ファサードは2階の高さを含めてガラス張りとし、店舗部分に天井がある一方で、通りからは梁組の迫力とブルワリーらしい雰囲気が同時に感じられる構成としました。また、平面的には、地盤の関係で床上げが必要だった建物の奥側をスロープで繋げつつ、店舗やファサードのカウンター、取手などのパーツにはステンレスを使用し、それぞれゾーンとして分けながらも、醸造スペースに並ぶタンクと連続した素材感が通りに滲み出るよう意識しています。そして、ファサードの間柱には一部構造を兼ねて、継ぎ合わせたヒノキの無垢材を使用しました。空間の高さを強調すると共に、カウンターのエッジなどと合わせて柱に丸みのある形状を取り入れることで、適度な柔らかさを持たせて構造と意匠を統合しました。ブルワリーとしての新しい機能と、建物がもともと持っていた強さを掛け合わせることで、呼子の新たなランドマークとして地域に根ざしていくことを願っています。

CASE-REAL

二俣公一Koichi Futatsumata

Staff

所長・醸造家近藤 健一

このブルワリーのために32年間勤めた金融機関を退職し、家族4人で呼子町に移住。

醸造家近藤 京子

夫健一さんと一緒に呼子に移住。自身もビールづくりに携わる醸造家。

Company

企業名
有限会社河太郎
事業内容
飲食店の運営およびクラフトビールの製造販売
設立年
1961年11月
従業員数
170名
本社
福岡県福岡市博多区中洲1-6-6